事例紹介

気体の溶解係数と自由体積

  高分子材料の気体透過性(ガスバリア性)の指針となる透過係数Pは、溶解係数S×拡散係数Dとして評価されます。 また、高分子中の気体分子の拡散挙動をMD(分子動力学法)で扱う際、溶解係数や系の自由体積を用いて、気体分子の数や初期の設置場所を決定することにより、より実現象に近い評価が可能となります。

 EVMS法(Excluded Volume Map Sampling)を用いることで、溶解係数を見積もることが可能です([1]〜[3])。あらかじめNPTアンサンブルMDによりマトリクス成分の構造を作成しておきます。次に領域を細分化し、各領域に任意のサイズのテスト粒子を設置した際のエネルギー変化を評価することで、気体分子の設置場所候補を求めます(ΔE<0となる位置)。最後に、候補位置に実際の気体分子を設置した際のエネルギー変化を用いて溶解係数Sを評価します。

 J-OCTAのCOGNACモデラーを用いてcisポリイソプレン(重合度100)の分子構造を作成して、100℃、1気圧下でのアモルファス構造をVSOPを用いて作成しました。図1は、直径2.75Åのテスト粒子を挿入した際にΔE<0となった位置の分布を示しており、気体分子の設置場所候補になります。また、テスト粒子のサイズを変更していくことで、自由体積を評価することが出来ます。

 全ての候補位置に二酸化炭素分子を設置した際のエネルギー変化から得られた溶解係数Sは、4.23E-06 [cm^3(STP)/(cm^3 Pa)]となりました(STPは標準状態を意味します)。実験値と比較して妥当な値と言えます。

 EVMS法のソルバーを作成しました。エネルギー計算にはLJポテンシャルと静電相互作用を考慮可能です。詳細はお問い合わせください。


図1 ポリイソプレン中の、気体分子の設置場所候補(XY平面への射影)
実際には、これらの候補のうち、気体分子を設置した際のエネルギー変化が負になる位置(溶解係数の評価に効いてくる位置)は限定されます。


 
●参考文献
[1] Mitsuhiro Fukuda, Journal of Chemical Physics, 112, 478, (2000)
[2] Yoshinori Tamai et al, Macromolecules , 28, 2544, (1995)
[3] Florian Muller-Plathe, Macromolecules , 24, 6375, (1991)





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